回復感が出てきたスペインの不動産市場

海外市場調査部 上席主任研究員     伊東 尚憲

 2014年の世界各国の不動産取引額が1月末頃から発表されはじめている。先進国を中心に高水準の不動産取引が行われ、世界の不動産投資市場が引き続き活況であることを確認できるが、今回はスペインの回復に注目したい。

 集計主体によって若干異なるものの、スペインの2014年の不動産取引額は80億ユーロを超え、前年の2倍強の水準となり、2008年以降では最大の取引額を記録している。欧州では英国、ドイツ、フランス、スウェーデンに次ぐ取引規模となった。最近報道された取引事例では、英国REITのIntu Propertiesがサラゴサ市の巨大な複合商業施設を4.51億ユーロで取得した取引や、米国REITのWP Careyがアンダルシア州政府から70棟のオフィス・ポートフォリオを3億ユーロで取得した取引などがあった。また、実物不動産取引ではないものの、シンガポールの政府系ファンドGICがスペインの不動産会社Gmpの約30%の株式を取得し、オフィスの投資ポジションを強化するといった報道もあった。こうした海外投資家だけでなく、スペインREITによる国内投資の拡大などもあって、不動産取引額は大幅に増加した。

 スペインでの不動産取引増加には幾つかの背景がある。まず、年金をはじめとした世界の機関投資家による不動産投資ニーズの拡大である。投資ニーズの拡大に伴って、投資地域の拡大や、投資対象となるプロパティタイプの拡大につながっている。実際、2014年に組成された世界の不動産私募ファンドの主要投資先を見ると、欧州の比率が急拡大していることがわかる。米国や英国など人気の投資先の競合激化などもあり、欧州へのクロスボーダー投資を活発化させようというものである。もちろん、ユーロ圏の量的緩和によって、資金調達環境の改善や、ユーロ安によって不動産価格の割安感が増すことも期待されている。次に、そんな欧州の中でもスペインの位置づけが向上していることである。1月発表のIMF世界経済見通しにおいても、軒並み下方修正となっているユーロ圏主要国を尻目に、スペインの経済成長は上方修正され、着実な景気回復ぶりをアピールしている。また、OECDの景気先行指数を見ても2013年夏以降、景気拡大局面の目安となる100を超えての改善が続いている。欧州の中では、英国やドイツが景気回復のトップグループであった。セカンドグループとしてフランス、イタリア、スペインなどが注目されていたが、スペインが一歩リードしているようである。そして最後は、スペインの不動産ファンダメンタルズに改善の兆しが見られるようになってきたことがある。着実な景気回復を背景に、オフィス需要の改善や、商業施設への需要回復が見られる。その一方で、新規供給はこれまでの不況の影響から抑制されており、需給は緩やかながら改善している。賃料上昇にはもう一段の需給改善が必要であるが、これ以上の低下は見込みにくく、賃料底打ちの期待が強まっている。

 20%を超える高水準の失業率や、欧州経済の下振れによる輸出不振懸念など、まだまだリスク要因はあるものの、2015年のスペイン経済は順調な回復が見込まれており、不動産ファンダメンタルズの改善も本格化が期待される。今年は更にスペインの不動産市場が注目を集めそうである。

(株式会社不動産経済研究所「不動産経済ファンドレビュー 2015.2.15 No.349」 寄稿)

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